#26_東野圭吾「レイクサイド」

妻は言った。「あたしが殺したのよ」―湖畔の別荘には、夫の愛人の死体が横たわっていた。四組の親子が参加する中学受験の勉強合宿で起きた事件。親たちは子供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする。が、事件の周囲には不自然な影が。真相はどこに?そして事件は思わぬ方向に動き出す。傑作ミステリー。

レイクサイド (文春文庫)

レイクサイド (文春文庫)

 いま最も人気のある作家の一人であろう、東野圭吾。『ガリレオ』『新参者』など作品が次々と映像化されて話題になっている。実は最近、父が東野圭吾にハマッたらしいのである。中古で買い集めて、大量に貸してくれた中にあった一冊だ。(離れて暮らしてはいるが、なんだか読書仲間のようになりつつある父である。)

 中学受験を控えた子供の勉強合宿として、三組の家族が湖畔のコテージに宿泊していた。一人遅れて到着した俊介はなんとなく他の親たちと馴染めずにいたが、そんな彼のもとに突然愛人の英里子が訪れる。
 その夜、待ち合わせの場に英里子は現れず、コテージに戻った俊介が目にしたのは彼女の変わり果てた姿であった。事態が飲み込めない俊介に、妻の美菜子は告げる。
「私が殺したの」

 他に人気の少ない湖畔の別荘で起こる殺人事件…とは、いかにも王道ミステリといったシチュエーションである。しかし内容はむしろ邪道と言ったほうが相応しく、結末もちょっと他では見かけないようなテイストであった。
 というのも、それほどページ数が多いわけではないのに展開が遅い。こんなにゆっくりやっていたら収まりきらない!と余計な心配をしてしまうが、そのような邪推をしているうちに、いつのまにかストーリーは意外な方向へとシフトしているのだ。「ここで終わりか!」と言ってしまいそうなラストなのだがそれも決して悪い意味ではなく、読後感は小気味良く仕上がっている。

 これは東野圭吾の別作品を読んでもしばしば感じたことだが、登場人物の誰にも感情移入できないのである。ストーリー自体は主人公である俊介の目線で進行していくのだが、不倫をしているし物言いもどこか冷めたようであり、決して好人物ではない。俊介の妻や他の親たちにも不審な言動が目立ち、なんとも言えない不気味さがある。つまりは、全員が怪しいのだ。
 一生懸命な主人公を応援しながら、とか、自分に重ね合わせて楽しむような小説も数多い。しかし本作は全く逆で、主人公すらも信用できないのである。偏った感情移入をしないで読める分フラットな目線で展開を追うことができ、結末の意外性がだからこそ効いてくる。「レイクサイド」の魅力はキャラクターでなく、ストーリーに尽きるのだ。

↓以下、ネタバレ

 受験に関する塾講師と親たちの繋がり、親たちが必死に守ろうとしているもの=子供…という図式も、それほど意外ではなかった。むしろ驚いたのは、真実が明らかになった後に
俊介が取った行動である。子供に対する愛情が芽生えた(思い出した?)ような展開はいささか唐突すぎる感が否めなかった。冷静沈着なポーズを貫いてきた俊介が、あれしきのことで死体遺棄に加担する決断に至るものであろうか疑問が残る。
 結局犯人が誰であったのかは俊介の憶測が述べられるだけに留まっており、判然としないまま結末を迎える。しかしこれは不思議と気持ち悪い感じがせず、作中で親たちが決断したのと同じように“知らなくてもよい真実”として受け入れられた。潔い終わり方なので、むしろ爽快である。

 読み終わって何かが心に残るような部類の話ではないが、ドキドキしながら最後まで読みきることができた。ページ数もそれほど多くなく、頭を悩ませる必要もないので、暇つぶし程度に手に取ってみるのが丁度よいのかもしれない。