#19_米澤穂信「氷菓」

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

 「ボトルネック」が面白かったので、米澤穂信に興味が出てきた。じゃあ次はデビュー作を読んでみようかと思い、こちらを手に。

 高校に入学したばかりの折木奉太郎は、「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」という“省エネ”をモットーとする少年だったが、強引な姉の勧めにより、何故か古典部へ所属することになる。初めて部室を訪れた奉太郎は、そこでもう一人の古典部新入部員・千反田えると遭遇した。聞くところによると彼女は、名家のお嬢様らしい。
 奉太郎と千反田える、それから成り行きで入部を決めた、奉太郎の友人である福部里志、その里志を追いかけて入部してきた伊原摩耶花古典部の四人は日常のなかで、様々な謎に出会うのだった。

 高校生活といえば薔薇色、薔薇色といえば高校生活―このような冒頭分から、物語はスタートする。なかなかセンセーショナルである。
 主人公である奉太郎は、積極性があるわけでなく、逆に腐っているでもない、まさに“省エネ”というスタンスの少年。ことなかれ主義とも言えるかもしれない。そのような少年が仲間に引っ張られながら、何だかんだと東奔西走する羽目になり、実はそんな日常が少し楽しく感じてくる…。傍目、つまり読者から見れば、それが正に『薔薇色の高校生活』なのだ。彼らの日常は、大変羨ましく私の目に映った。

 奉太郎を取り囲む古典部の面々は、皆どこか少し変わっていて面白い。千反田は天然系お嬢様といった雰囲気だが、自己主張はしっかりとする。何事にも好奇心旺盛であるので、全体を通してストーリーを展開させるのはいつも彼女、という構図になっている。もう一人の女性主要キャラクターである伊原は、一見きつい性格のようだが、言動の端々に年相応の女の子らしい一面が見え隠れしており微笑ましい。
 そして、個人的には里志が一番好きなキャラクターだった。複数の部活を掛け持ちしたり、積極的に事件に首を突っ込んだりと、自らの日常を楽しく過ごす技を会得しているようだ。
「僕はねホータロー。まわりがどうあれ基本属性が薔薇色なんだよ」
斜に構えているように見せながらもどんどん周囲に巻き込まれていってしまう奉太郎に対して、里志はあえて渦に突っ込んでいくタイプである。鳥瞰的に物事を見られる分、実は四人の中で一番大人なのかもしれない。ポジティブな考え方を貫いている人間というのは、見ていて清々しいものだ。

 彼らが学校生活や部活動の中で出くわす様々な謎を、皆と協力し合いながら奉太郎が解き明かしていく…という形で物語は進められるが、事件自体は大変たわいない。取り立てて意外な結末が待ち受けている訳でもなく、その分、探偵役の奉太郎も活躍しきれないようであった。ページ数が200強と少ないので仕方ないのかもしれないが、少々物足りなく感じてしまった。本作が「青春ミステリ」と銘打たれているのであれば、「青春」の部分は良くできているが「ミステリ」としては弱い、といった所であろうか。

 あっという間に読み終えてしまったが、それほど印象に残らなかった。決してつまらなかった訳ではないのだが…。
 とはいえ、文体やセリフの言い回しは好みなようだ。もう少し米澤穂信の別作品を読んでみることにしよう。