#16_有川浩「図書館革命」

原発テロが発生した。それを受け、著作の内容がテロに酷似しているとされた人気作家・当麻蔵人に、身柄確保をもくろむ良化隊の影が迫る。当麻を護るため、様々な策が講じられるが状況は悪化。郁たち図書隊は一発逆転の秘策を打つことに。しかし、その最中に堂上は重傷を負ってしまう。動謡する郁。そんな彼女に、堂上は任務の遂行を託すのだった―「お前はやれる」。表現の自由、そして恋の結末は!?感動の本編最終巻。

図書館革命 図書館戦争シリーズ (4) (角川文庫)

図書館革命 図書館戦争シリーズ (4) (角川文庫)


 図書館戦争シリーズ第四巻、いよいよ完結編。レビューをアップするのが遅くなってしまったが、一巻目「図書館戦争」を読み始めてから一週間でこの「図書館革命」までの四冊を読み切った。私にしてみればかなりのハイペースなのだ。
 とても充実した、楽しい一週間だった。

 さすが最終巻というだけのことはあり、スケール感もスピード感も最高潮だ。今回は二、三巻のように幾つかのエピソードを盛り込む形ではなく、一冊を通じて一つの長編エピソードが語られる。

 突如発生した原発テロに、内容が酷似しているという小説が浮かび上がった。作家の名前は当麻蔵人、実は堂上は彼のファンだった。対テロ特借法の追い風を受けて当麻の確保に乗り出したメディア良化隊に対し、図書特殊部隊が警備を担当することに。手塚慧との共闘や玄田による報道界を巻きこんだ奇策は成功したかに見えたが、行政訴訟の敗訴とともに図書隊側の状況は悪化の一途を辿る。そんな中、会議で郁が何気なく(意味も分からず)発したアイディアは起死回生の可能性を孕んでいた!特殊部隊の面々は、一世一代の大作戦に挑む…。

 表現の自由と、犯罪を誘発させうる文章の危険性。扱うテーマは身近であり簡単に結論付けるのも難しい問題だが、作品自体は相変わらずテンポ良く書かれており読みやすい。最終巻に至るまでの三巻でバックグラウンドは完璧に出来上がっているのでストーリーにすんなり入っていけるし、なにより全シリーズで見てもこの「革命」は、スピーディーさが群を抜いている。シリアスなシーン、息もつかせぬようなアクションシーン、コミカルな会話シーンと、絶妙に展開するところはさすがである。
 それにしても、テロ事件と内容が似ている小説が糾弾されていくとは、然もあり得そうなことではないか。小説に限らず映画や音楽にしても、それは作品として自然に受け入れられていたはずなのに、ひとたび犯罪との関連性が垣間見えただけで、まるで作品自体が悪であり犯罪であるように報じられる。逆に言えば、たとえば大活躍をしたスポーツ選手の「じつは毎朝食べる納豆に勝利の秘訣が!」などという実しやかな報道により納豆が売り切れてしまう…というような風潮も同じなのだが、人間と言うのはとにかく、分かりやすいシンボルを必要としてしまうものなのだろう。こと犯罪心理など、複雑で分かりにくいものであればあるほど、単純な象徴に置き換えたくなる。それが小説であり、納豆なのだ。

↓以下、ネタバレ

 さて本編であるが、まず一つ不満をあげるとすれば、あまりにあっさりと手塚慧が陥落してしまったことであろうか。それは柴崎の力によるところとも言えるが、手塚慧こそがラスボスであるに違いないと(勝手に)思い込んでいただけに、最後の最後にもう一回くらい裏切ってくるんじゃないか!?などと、あらぬ想像に思考を割いてしまった。しかし手塚慧は曲がりなりにも図書隊の人間であるし、あくまでも検閲との闘いがテーマであるならば必然的とも言えるだろうか。それに何と言っても手塚の実の兄だし、考え方が違うだけで基本的には味方という方がキャラクターにとっては幸せな解釈である。柴崎との電話での会話シーンは、郁たちの直接的なものとは違うひとつの「戦い」として、大変読みごたえがあった。
 大使館駆け込みの失敗から堂上の負傷、郁と当麻が大阪に向かい展開する作戦…と、クライマックスまでの流れはさながらアクション小説のような疾走感があった。これまで散々周りの非凡な面々に助けられてきた郁が、ここへ来て初めて自分自身の能力のみに頼らざるを得なくなる。しかしそこは郁の事だ、一度前を向いたら最後までやりきってしまう。ここまで主人公然とした主人公は、逆に珍しいかもしれない。一貫して言ってきたことだが、問答無用に「カッコいい」。

 そして当然のことながら、郁と堂上の恋にも結末が訪れる。重傷を負った堂上を残して郁が大阪へ向うとき、分かれすがら郁の方から堂上の唇を奪うのだが、柴崎といい郁といい、この小説に登場する女はどこまでも男前である。
「大丈夫だ。お前はやれる」
「あたし、帰ってきたらカミツレ返して、堂上教官に好きって言いますから!」

 (本人達を除いて)お互いの気持ちが明白過ぎた二人だが、一歩を踏み出すのには何かきっかけが必要だったのかもしれない。勇気を振り絞るのはいつも郁のような気がして少しズルくも思えるが、堂上は言葉より態度で示すタイプなので良しとしよう。
 何はともあれ、にやけ顔を浮かべながらずっと見守ってきた二人が無事幸せになれたようで、良かった良かった。

 シリーズ通して、こんなに熱中したのは久しぶりのことだった。最終巻を読んでいる時には、ページを繰る手が止められないが、それと同時に読み終えてしまう寂しさすらも感じたほどである。
 他の有川浩作品も手にとってみることにしようと、興味がかなり湧いている。いずれまたこの様な、エキサイト出来る小説に出会うことを願うばかりだ。