#15_有川浩「図書館危機」

思いもよらぬ形で憧れの“王子様”の正体を知ってしまった郁は完全にぎこちない態度。そんな中、ある人気俳優のインタビューが、図書隊そして世間を巻き込む大問題に発展。加えて、地方の美術展で最優秀作品となった“自由”をテーマにした絵画が検閲・没収の危機に。郁の所属する特殊部隊も警護作戦に参加することになったが!?表現の自由をめぐる攻防がますますヒートアップ、ついでも恋も…!?危機また危機のシリーズ第3弾。

図書館危機 図書館戦争シリーズ (3) (角川文庫)

図書館危機 図書館戦争シリーズ (3) (角川文庫)



 図書館戦争シリーズ第三巻。一巻「図書館戦争」が導入編、二巻「図書館内乱」で地固めが終わり、いよいよストーリーが本格始動したという雰囲気である。
今回も全体的にネタバレがあるかもしれないので、嫌いな方はご注意を。

一、王子様、卒業
 前巻のラストで手塚慧から、王子様=堂上であることを知らされてしまった郁。前巻を読んだ時点では、「もうちょっと引っ張れるのに、もったいない」と感じたのだが、この章を読んで納得した。王子様への憧れと堂上へ惹かれる気持ちが並行していては、郁はいつまでも今の堂上とは向き合えない。早めにバレたのは、その分郁の気持ちを丁寧に描くためなのだろう。
 図書館内で毬江が痴漢に遭い、郁と柴崎が囮となって犯人を捕まえるエピソード。小牧の荒々しい様子は珍しいが、大事で仕方がない恋人が傷つけられたとなれば当然だろうか。理路整然としているだけに、怒らせると一番怖い男である。
 郁の王子様卒業宣言には小牧と一緒に笑ってしまったが、相変わらずカッコいい主人公だ。男よりも女にモテるタイプなのではないだろうか。
 個人的には、痴漢の囮になるために女性らしい装いをした郁に、見違えたと言いかけて「み、」と言ってしまう手塚が可愛くて好きだった(笑)。

二、昇任試験、来たる
 郁と手塚、柴崎が、士長昇任を目指して試験を受けるエピソード。珍しく苦手な分野に行きあたり、必死になる手塚が微笑ましい。真面目で頭が固い人間というのは、往々にして子供が苦手なのだろうなと思う。
 この章辺りから郁が、王子様としてではない堂上自身を好きなのかもしれないと自覚し始める。いよいよラブコメの真骨頂といった様相で、思わずにやけてしまうようなシーンも多い。ここで郁と堂上が交わすカミツレに関する会話が、後々にまで意味を持つことになる。

三、ねじれたコトバ
 玄田と旧知の仲であり週刊誌の記者である折口マキが、ある俳優のインタビュー記事を書くことになる。メディア良化法の違反語に該当するワードを避けて記事をまとめた折口に対して、俳優は自らの表現を改変されたことが納得出来ない。
 派手なエピソードではないが、「図書館戦争」シリーズの本質を突いているように思う。メディア良化法が存在しない世界にいる私たちだが、「不適切な表現」とされる所謂「放送禁止用語」や「差別用語」など暗黙のルールはしっかりと形成されている。“自主規制”も、一つの検閲と言えるのではないだろうか。火器を使ったアクションシーンなどがない分、あながちSFの世界とも言い切れないストーリーである。
 粗雑で無鉄砲に描かれていた玄田であったが、一世一代の奇策を打って見せ、その頭脳に驚かされる話でもあった。堂上や郁のように信念一つで突っ走っていくような人間では決してなく、どちらかと言えば小牧に近い性質なのかもしれない。口は乱暴だが、利害を天秤にかけて客観的な判断を下すことの出来る人物なのだ。さすが特殊部隊の隊長を務めているだけのことはある。

四、里帰り、勃発―茨城県展警備―
五、図書館は誰がために―稲嶺、勇退

 茨城県で開催される美術展の最優秀作品に、良化法批判の意思が明らかな絵が選ばれる。良化特務機関の検閲が予測される県展の警備に当たるため、関東図書隊の特殊部隊は茨城県立図書館へ赴いたが、そこの図書隊には理不尽なヒエラルキーが存在していた。一巻「図書館戦争」で情報歴史資料館の攻防への参戦を外されていた郁にとっては、初めての大規模な攻防戦となる。
 女子寮で郁は図書館員から陰湿ないじめを受けるが、傷つきながらも毅然とした態度を取り続ける様は清々しい。そしてここぞとばかりに堂上が優しいので、その辺りも見どころである。
 郁にとって初めての大規模攻防であるとともに、読者の側から見てもここまで凄惨な戦闘シーンが描かれたのは初めてである。改めて、図書館“戦争”シリーズであると思い出される。全身に銃弾を浴びながらも笑みを浮かべる玄田や、辞任する稲嶺に向かってずらりと並んだ図書隊員が一斉に敬礼する…など、なんとも『男くさい』シーンも多い。表現の自由公序良俗といったテーマを盛り込みつつも、SFとしてのエンターテイメント性もしっかりと押さえられている。各巻でそれがバランスよく配置されているので、全4巻の長編シリーズでも飽きさせないのだろう。
 手塚慧もいよいよ台頭してきた。稲嶺を欠き、玄田も不在の関東図書隊はどうなってしまうのか。ラストでついに堂上が好きだと認めた、郁の恋の行方は…?大変に引きを持った状態で、第三巻目は幕である。

 と言う訳なのだが、実は最終巻も既に読み終わっているのだ。正確には、ぶっ通しで読んでしまった。そちらのレビューに関しても、近々にアップしたい。