#14_有川浩「図書館内乱」

図書隊の中でも最も危険な任務を負う防衛隊員として、日々訓練に励む郁は、中澤毬江という耳の不自由な女の子と出会う。毬江は小さいころから面倒を見てもらっていた図書隊の教官・小牧に、密かな想いを寄せていた。そんな時、検閲機関である良化隊が、郁が勤務する図書館を襲撃、いわれのない罪で小牧を連行していく―かくして郁と図書隊の小牧奪還作戦が発動した!?書き下ろしも収録の本と恋のエンタテインメント第2弾。

図書館内乱 図書館戦争シリーズ (2) (角川文庫)

図書館内乱 図書館戦争シリーズ (2) (角川文庫)


 私は本を読むのが遅い。一字一句きちんと目を通さないと先に進めないという妙なこだわりと、読解力不足が主な原因で、加えて時間の使い方も下手なためになかなか腰を据えて本を開く時間がない。なので通常は、4〜500ページほどの文庫本を一冊読むのに一週間かかってしまう。内容如何によってはもっとかかることも。
 しかしこの「図書館内乱」は、一日で読み終わってしまった。私にしてみれば相当早いペースである。前巻からの勢いで、先が気になって気になって仕方なかった。
 いやぁ、面白かった。

 前巻「図書館戦争」で、主人公笠原郁を始めとする主要キャラクター達の性格と、物語の世界観と設定に対する説明が完了した。本作から、やっと本流に乗って滑りだした印象である。一から五までの章に分かれているが、大きなエピソードとして見れば四つ。終りの二章は続きの話となっている。
 今回は全体的にネタバレがあるかもしれないので、嫌いな方はご注意頂きたい。

一、両親攪乱作戦
 前巻より「娘が戦闘職種に就いていると知れば、卒倒確定」とフリのあった、郁の両親が武蔵野第一図書館を訪ねてくるというエピソード。郁は自分が図書特殊部隊配属であることを必死に隠そうとするが、単純に心配した様子の母親に対して、どうやら父親は薄々感づいているような素振りを見せる。最後には堂上に思いを託して去っていくが、堂上を頼れる上官と判断したのか。娘の恋心まで見抜いていたのだとすれば、大した父親である。子供が想像するよりも、親は子供の事が分かっているのかもしれない。何にせよ、格好いいオヤジだ。
 迷惑そうに文句を言ったりしつつも、結局協力的な態度を取ってしまう堂上班の面々や柴崎も微笑ましい。郁が皆に助けられていることが良くわかる章でもある。

二、恋の障害
 小牧にスポットを当てたエピソード。中澤毬江という中途難聴者の少女が初登場する。毬江は小牧の幼馴染で、まだ十八歳でありながらも小牧に恋心を抱いている。
郁と柴崎、そして毬江と、女性陣の活躍が際立つ。恋愛スキルが低そうな郁だが、自分自身が絡まなければ結構鋭いのかもしれない。小牧と毬江の関係はお互いを依存し合っているようで危うくも見えるが、その分思いの強さは十分に伝わってくる。巻末のショートストーリーからも伺えるように、時間が経つにつれて段々と、普通の可愛らしいカップルになっていくのだろう。
 小牧への出頭要請で良化部隊が乗り込んできたときに、たて突いた郁を堂上が殴って宥めるシーンがある。そのあとでフォローを入れに来た堂上と郁のやり取りが、上官としての責任と一個人の愛情、両方が見えるようでとても良い。危なっかしい部下を持って、しかもそれが気になる女の子だとすれば、堂上の気苦労は半端ではないと思う。
 ところで、郁はしょっちゅう堂上の平手を食らっている気がするのだが。

三、美女の微笑み
 柴崎のエピソード。「自分は美人だから」というような発言が元より目立っていたが、他人の内面を推し量るのが得意である故の苦悩と葛藤が描かれる。美人すぎるのも意外と大変である。
 同僚の女性たちや、それを見る柴崎の心情など、さすが女性作家の小説だと言える。読みやすく書かれてはいるが、結構黒い女の一面もチラホラ。そんな中で郁のまっすぐさは爽快であり、郁がそばにいる柴崎は幸せ者だと思う。

四、兄と弟
五、図書館の明日はどっちだ

 このエピソードで手塚の兄・慧が登場し、研究会『未来企画』と、派閥の対立構造が明らかになる。査問にかけられたり研究会に勧誘されたり、郁が精神的に揺さぶられるシーンが多くみられるが、頭が良くないなりに必死で考え、彼女なりの信念を持って発言している様子は頼もしい。肉体労働専門に思われた郁だが、精神面もかなり強いようである。どこまでもかっこいい主人公だ。
 「俺が迎えに来たかったのは俺の勝手だ」
 堂上は今回目立った活躍が出来ずに終わるが、郁を励ます言動や態度がイチイチ優しい。慧と会っていた郁を迎えに来るシーンなどは、あまりにもお約束過ぎて、むしろそれが堪らない。痒いところに手が届く、というか、しかるべき場面でしかるべき行動に出てくれるが堂上の魅力なのだ。
 手塚に色々と懸案があることも明らかになった。全く違う意見を持つ兄との関係というのも、なかなかに難しい。お互いに嫌い合っている訳ではない分なおさらである。新しく館長に就任した江東という人物も、今後ストーリー上で重要な役どころになってきそうな予感がする。ところで、手塚と柴崎が少しずつ良い感じになっている気がするのだが、二人の恋愛という路線もあり得るのだろうか。個人的に手塚は好きなキャラクターなので、大いに応援したいところだ。
 ラストでついに、王子様イコール堂上であると郁が認識する。手塚慧によってバラされた形だ。「ついに」と表現したが、私としては「アレ、もうバレちゃうの!?」という印象だった。もう少し引っ張ると思っていたが、案外早い。シリーズはあと2巻分続くので、今後郁が堂上をどのように意識するのか…大変気になるところだ。それに、郁が知ってしまったということを堂上は知らないはずなので、そのあたりも見どころである。

 2冊読み終えて、いよいよ折り返し。先が気になる度合いも加速度をつけて増している。例によって次巻は購入済みなので、早速読み始めることにしよう。