#13_有川浩「図書館戦争」

2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?番外編も収録した本と恋の極上エンタテインメント、スタート。

図書館戦争 図書館戦争シリーズ (1) (角川文庫)

図書館戦争 図書館戦争シリーズ (1) (角川文庫)

 実は、有川浩の作品を読んだのはこれがはじめてである。今最も人気と勢いのある作家の一人だと思うが、なんとなく機会を逸して読めずにいた。
いざ読んでみると、何だコレ!チョー可愛い!!キャラクターは誰もが個性的で姿が目に浮かぶようだし、セリフの一つ一つが微笑ましい。加えて、恋愛要素が主かと思いきや、バックのストーリーも大変しっかりと作られているのだ。もちろん、ラブコメの面目躍如的シーンもふんだんに用意されている。アニメ化、コミカライズという動きも頷ける。
 かくして、終始ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら読みきってしまった。傍目には大変不気味である。うーん…恐るべし。

 舞台は現代よりもほんの少しだけ未来の日本、東京。政治的背景によって成立した、過剰すぎる検閲権を有する「メディア良化法」と、それに対抗すべく成立した「図書館の自由法」―両法の名のもとに、「メディア良化委員会」と「図書館」が本の自由を懸けて時には武装し、抗争を繰り広げている…と、かなりSF要素の強い設定だ。第一章の冒頭でこの世界観に対する説明がなされるのだが、この部分を読んだだけで完璧に理解するのは少し難しい。しかしそのまま読み進めると、きちんとストーリーの中で徐々に消化できる構造になっているので、ここは心配せずとも大丈夫だ。むしろ、特殊な設定を採用しているSF作品において序盤にあまりにも長々と説明文が続いてしまうと、理解するよりも先に興ざめしてしまう。ここはフレーム程度に留めておいて、ストーリー上の必要性に応じて少しずつ肉付けされていく方が、よほど親切である。
 こと本作に関しては、主人公の笠原郁が無知(要するにおバカ)という設定なので、主人公と一緒に上官たちから教わっていけば良いのだ。

 物語のメインとなるのは、2人のキャラクター…主人公の笠原郁と、その上官である堂上篤である。郁は、高校生の時にとある図書隊員に助けられた経験を持ち、その「王子様」(と、郁が勝手に読んでいる)を追いかけて、自分も図書隊員となった。座学の成績はひどい有様だが、その類まれなる身体能力と負けん気の強さを買われ、新隊員にしていきなり図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)へ抜擢される。女性の特殊部隊員採用は、史上初のことであった。
 対する堂上は、訓練期間中は新退院に厳しい「鬼教官」であり、特に郁には、なぜかことのほか厳しく当たっているように見えた(その理由は終盤で明かされる)。郁が特殊部隊に配属されてからは直属の上官となり、事あるごとに怒鳴り散らす日々である。しかし、郁が本当のピンチに陥った時には必ず駆けつけて助けるし、落ち込んだときには黙って泣かせてくれる優しさも見え隠れする。ちなみに容姿は、端正な顔立ちながらも身長の低さが玉にキズ、170センチの郁と比べて5センチ以上も「チビ」である。
 郁はまっすぐな性格と一生懸命な姿が好感の持てる、主人公らしい主人公として描かれている。言うなれば、典型的な「愛されキャラ」である。上官や同僚相手に啖呵を切ったり、後ろからドロップキックをかましたり(!)と男勝りな面が目立つが、実はすぐに涙を見せるというような可愛らしい一面もあり、素直に応援したくなる。そんな郁に首しく当たる堂上だが、決して「完璧な上官」としては描かれておらず、郁が自分の仕事に悩んだり落ち込んだりしている影で、ひそかに堂上もクヨクヨしていたりする。素直ではないが案外分かりやすい正確なので、意外に可愛いキャラクターなのだ。
「今に見てろチビ!大っ嫌い!」
「アホか貴様!」
 二人の喧嘩にも似た掛け合いは、思わず笑ってしまう。目の上のタンコブのように感じながらも徐々に尊敬の念を深めていく郁と、口では厳しいことを言うが何だかんだで結局優しくしてしまう堂上。シリーズものの一巻目なので本作は「恋の予感」程度に留まっており、今後が楽しみでしかたない。

 郁のルームメイト柴崎麻子や特殊部隊の隊長玄田竜助など、脇を固めるキャラクターも皆個性が強くて魅力的だ。その中でも特筆したいのは、郁と同期で、同じく図書特殊部隊へ配属された手塚光である。手塚はいずれの分野においても成績優秀でありながらさらに努力を惜しまない優等生で、同じ様な気質の堂上を慕っている。序盤は、正論を振りかざして郁を傷つける「嫌味なヤツ」という印象だが、徐々に手塚なりの不器用さや人間味が見えてくるようになり、最終的には班のツッコミ役のような存在に落ち着いてしまう。(他がボケ担当ばかりなため。)
 直観力と咄嗟の判断力に長ける郁と対照的な存在として描かれているため、頭は良いが融通が利かない、というようなシーンが目立つ。だが手塚個人で見れば優秀な図書隊員であることは間違いないので、今後の続編にて、彼の活躍シーンも期待したいところだ。

↓以下、ネタバレ

 郁の「王子様」は予想通り堂上である。予想、というよりセオリーに近い。むしろそうでなくては困る。顔を全く覚えていないだけならともかく、本人を前にしても全く気がつかないというのは、少々苦しい。しかし、肝心の郁は全く気付かないのに、堂上の方は最初から気付いている…という設定はオイシイので、多少の不自然は目を瞑るべきなのだろう。郁が揚々と「王子様」を語っているとき、堂上はどのような表情を浮かべていたのだろかと想像すると、大変くすぐったい気分になる。作中の表現を借りると、「痒い」!
 郁が自分で思いだすのか、堂上が名乗り出るのか、それとも第三者から情報がもたらされるのか。郁がどのようにして「王子様」イコール堂上であることを認識するのか、楽しみである。

 設定、キャラクター、ストーリー展開と、問答無用に面白かった。そして、今後ますます面白くなりそうな予感もプンプンしている。既に次巻「図書館内乱」は購入してきてあるので、これから早速楽しむことにしよう。全四巻のシリーズであるが、最後までニヤニヤさせてくれることを期待してやまない。