#04_山下貴光「有言実行くらぶ」

憂鬱で退屈な学校で、次々と掲示板に貼り出された謎のメッセージ。不可能と思われた「犯行予告」だが、確実に実行されてゆく。一体犯人は何者なのか?目的は?表題作のほか「イヌとネコの暇つぶし」「天使の条件」「幸福の呪文」「子イヌ」を収録。イヌ、ネコ、カメが巻き起こす爽快学園ストーリー。

有言実行くらぶ (文芸社文庫 や 1-1)

有言実行くらぶ (文芸社文庫 や 1-1)

 本屋をフラフラ歩いていて、なんとなく目に付いた文庫本をそのままレジへ持って行くことがしばしばある。大方は表紙の絵や帯のアオリ文が気になって手に取るのだが、この本に関してはタイトルに惹かれた。「有言実行」という四字熟語とひらがな表記の「くらぶ」の組み合わせに、なんとなくノスタルジックな雰囲気を感じて購入。結論から言えば、違ったのだが。

 ごく平凡、どちらかといえばさえない方である主人公の亀井カズキ(カメ)が、スマートで柔和な猫沢ハジメ(ネコ)、無骨で男らしい犬崎タダシ(イヌ)という二人の少し変わった上級生と出会うところから、物語りは始まる。短編集の形式を取っており、第一話の『イヌとネコの暇つぶし』で三人が出会い、続く『天使の条件』表題作『有言実行くらぶ』『幸福の呪文』で、高校生活のなかで出会う様々な出来事をそれぞれ描いている。最後の『子イヌ』は番外編、イヌの小学生時代を描いた「エピソード0」的なストーリーだ。

 短編という特性上、一つ一つの話は大変あっさりしている。主人公たちが高校生なので物語の舞台は学校やその周辺に限られるし、登場人物も学生や教師がほとんど。番外編を除く四編は、日常の中で出会うちょっとした事件に三人が関わっていく…という流れなのだが、どの話もあっと言う間に解決してしまう。ネコの明晰な頭脳とイヌの行動力が光るが、二人が活躍すればするほど、主人公であるカメは影が薄くなってしまう。二人の行動を俯瞰で眺めている、という雰囲気のキャラクターでもないので、もう少しカメが活躍するシーンがあっても良かったように思う。
 第四話『幸福の呪文』では、カメが地味で目立たない存在であると非難され、愉快な奴だから一緒にいるのだとイヌが反論する場面が描かれている。全編を通して一つの核心ともいうべきシーンであるが、カメの「愉快」な部分がもっと多く表現されていれば、より説得力が生まれたように感じる。物語の中で彼らはお互いの良さを十分に理解しあっているが、第三者(読者)にそれが伝わるまでには、もう少しページが必要なのかもしれない。

 番外編『子イヌ』はイヌの小学生時代を、当時の同級生であり現在はカメ達三人が通う高校の生徒会副会長、という「ミナコ」が回想する形で展開する。イヌの過去の話ではあるが主人公はミナコであり、高校生になったイヌとの関連性も特にない為、番外編だけでも支障なく読めてしまう。
 両親の不仲が原因で自然な笑顔がつくれなくなった小学生のミナコは、徐々に女の子達の輪から外れてしまい、クラスメイトであるイヌとその親友の「シュウ」がミナコを笑わそうと画策する…というストーリー。
 些細なことで仲間はずれが起きたり誤解されたりと、小学生の頃に誰しもが経験した感覚であると思うが、この番外編ではそれが見事に表現されている。あくまでも本筋から外れているのでライトに書かれてはいるが、私としては、この本の中で最も読み応えがあると感じた。会話の内容や行動も小学生らしくて可愛いし、前向きなラストは爽やかである。

 ネコ、イヌ、カメ。三人の取り合わせが好きになってきた頃に物語は終わってしまうので、少し物足りなくて残念である。彼らが活躍する長編小説も読んでみたい気がした。

 最後に、本文中のセリフより。
「有言実行なんていう言葉は存在しない。不言実行という言葉を参考にした、造語だよ。」
 私はコレ、知らなかった。すぐさま電子辞書を引いてみると、確かに「不言実行」しか出てこない。意味は「あれこれ言わず、黙って(善いと信ずるところを)実行すること。」
 小説の中でこういった知識に出会うと、なぜだか忘れない。ひとつ勉強になった。